歯列矯正で歯が動く距離は、歯や顎の骨、使用する矯正装置によって大きく変わります

◎マウスピース矯正「インビザライン」の場合

マウスピース矯正のインビザラインでは、透明な樹脂製のマウスピースを装着して歯を動かします。正確には「アライナー」と呼ばれる装置で、1枚当たり0.25mmくらい歯を動かすことが可能です。

インビザラインのアライナーは、1～2週間に1回の間隔で新しいものに交換するため、仮に1週間のペースで治療を進めた場合、1ヵ月で1mm歯が動くことになります。2週間に1回のペースでアライナーを交換した場合は、1ヵ月で0.5mmとなります。

ちなみに、アライナーの交換頻度はケースによって変動するため、実際に治療を始めてみなければわかりません。

 ◎ワイヤー矯正の場合

マルチブラケット装置を用いたワイヤー矯正では、1回のワイヤー調整で歯を0.5mm程度動かせると言われています。

標準的なワイヤー矯正は1ヵ月に1回の調整が必要となるため、1ヵ月に動かせる歯の距離も0.5mmとなります。

ただし、これはあくまで理論値であって、実際の移動距離はもっと少なくなることも珍しくありません。

歯列矯正で歯が動く距離は、歯の頭の部分である「歯冠（しかん）」の歯の根っこの部分である「歯根（しこん）」とで大きく変わります。歯冠の部分は比較的動かしやすく、1ヵ月でもその変化を実感しやすいことでしょう。

一方、顎の骨にしっかりと埋まっている歯根は、1ヵ月で実感できる変化はほとんど起こりません。

◎歯の傾きは改善しやすい？

同じデコボコの歯並びで、歯が生えている位置の異常ではなく、傾きの異常に由来している場合は、歯列矯正による効果を実感しやすいです。例えば、前方に傾いている歯を起き上がらせるような処置は、生えている位置を修正するよりも容易なのです。

歯列矯正のデメリットのひとつに「治療期間が長い」という点があります。1ヵ月に0.5mm程度しか動かせないのなら、強い力をかけることで治療期間を短縮できるのでは？そんな疑問を抱く方もいらっしゃるかと思いますが、その考え方はとても危険です。

顎の骨に埋まっている歯を動かすためには、骨を溶かすことと骨を再生させることを同時に行っていかなければなりません。これを専門的には骨のリモデリングと言います。極端に強い力を歯にかけると、このサイクルは破綻して組織の破壊を引き起こしてしまうことでしょう。歯根の吸収や破折という深刻なトラブルも招きかねません。